クマネシリ岳・西クマネシリ岳 ―「アスレチック」の異名は伊達じゃなかった

「早すぎてお父さんだけ行方不明とかやめてよ」「絶対やらかすから気を付けてよ」——出発前夜、初めて先頭を歩くと娘たちに告げたときの言葉です。そして結論から言うと、私はきっちり「やらかし」ました。2026年8月16日、くしろ山岳会メンバー4名で挑んだクマネシリ岳・西クマネシリ岳。反省と発見の詰まった、長い一日の記録です。

クマネシリ登山口でのスタート
8:00 登山口をスタート。天気は良好、気温は少々高めでした。

山行データ

日 程2026年8月16日(日)8:00 〜 16:26
山 名クマネシリ岳(1,429m)/西クマネシリ岳(1,464m)/ピリベツ岳(断念)
参加者4名 ─ Kさん(リーダー)、Yさん、Aさん、S(サブリーダー兼記録)
天 候晴れ、気温高め

出発前から、すでに「やらかし」ていた

集合は6時30分、旧足寄町の道の駅。5時に家を出れば間に合う計算でしたが、念のため4時30分に出発することにしました。この「念のため」に、あとで救われます。

車に乗り込んで、気づきました。ガソリンがない。

慌ててネットで24時間営業のスタンドを探すも、30分以内に行ける店は1軒だけ。とりあえず向かうと、そこは順番待ち。給油を終えて時計を見ると、ちょうど5時でした。結局、当初の予定通りの出発です。

リーダーのKさんからは(当たり前ですが)時間厳守と言われていたので、相当焦りました。働き方改革や人手不足で、昔のようにセルフスタンドがどこも24時間営業というわけではないんですね。時間に余裕をもって行動する——山に入る前から、この日の教訓その1をいただきました。

荒れた林道と、一抹の不安

集合地点に着くと、すでにKさん、Yさんが到着済み。私の到着を待って、遠方から来るAさんが待つクマネシリ登山口へ向かいます。

Kさんの情報では「登山口までの道のりが相当荒れている」とのこと。車高が高い私の車が先頭に立ち、路面状況を確認しながら進みます。途中、大きめの枝が道を塞いでいたので、車を降りて取り除きました。その後もなかなかの荒れ具合でスピードが出せず、登山口に着いたのは7時30分過ぎ。

——ところで、あの枝。誰も取り除いていなかったということは、今日はまだ誰も入っていない。

「人気のない山なのか」「そもそもこの時期に来るべき山ではないのか」。身支度を整えながら、一抹の不安が胸をよぎりました。この予感は、のちに的中します。

先頭を任されて、序盤から「やらかす」

今回、私はサブリーダー(SL)として先頭を歩くことになりました。冒頭の娘たちの言葉は、このことを夕食時に話したときのものです。実の家族から死人が出る前提で心配されるとは思いませんでした。

大木をくぐる急登の登山道
コースは急登の連続。大木の下をくぐる場面もあり、なかなかハードです。

途中でブルーベリーらしき実を発見。本当にブルーベリーかどうか確認している間に、ワイルドなAさんは迷うことなく味見をしていました。

Aさんは自称「初心者」を掲げていますが、趣味を聞けば林道(酷道)オフロードバイク、SUP……。当会でも指折りのアウトドアマン、というかエクストリーム系ではないかと私はにらんでいます。

登山道で見つけたブルーベリー
ブルーベリー(たぶん)。確認前に味見できる胆力がうらやましい。

さて、実際に先頭に立ってしばらく歩いていると、後ろから「ちょっとペース早いです」とアドバイスが飛んできました。

時折振り返ってはペースを調整しているつもりなのに、振り返るたびに必ず列が伸びている。頭ではわかっているのに、ペースの調整が全くできない。写真を撮るために少し早めに歩いて、撮ってからまた合流する——そのつもりが、気づけばハイペースになっていました。

そしてこの行為が、のちに仲間へ深刻な影響を与えることになります。家族の言うとおり、私は序盤からきっちり「やらかして」いました。

樹液まみれのハイマツ帯を抜けて、クマネシリ岳へ

クマネシリ岳分岐手前から振り返った眺め
クマネシリ岳分岐の手前で振り返ると——
遠望する大雪山系
大雪山系がきれいに見えました。ここまでの急登が報われる瞬間です。
急登を登り終えた地点
ようやく急登を終えました。
クマネシリ分岐から眺めるクマネシリ岳
クマネシリ分岐から、これから登るクマネシリ岳を眺めます。

ここからハイマツ帯に入ります。これまでいろいろなハイマツ帯を経験してきましたが、ここのハイマツは樹液の量が半端ではありません。かき分けて進むうちに、全身がベトベトになりました。

密生したハイマツ帯
元気すぎるハイマツ。抜けるころには全身ベトベトです。
クマネシリ岳の山頂
まずは一つ目、クマネシリ岳(1,429m)山頂に到着。

絶景、そして想定外の岩場

次に向かうのは西クマネシリ岳です。相変わらず私のペースが不安定なため、しばらくするとKさんから先頭チェンジの提案がありました。さすがリーダー、的確な判断です。

例によって元気なハイマツをかき分けて進んでいくと、突然視界が開けて絶景が出現しました。

西クマネシリ岳とピリベツ岳
左がこれから目指す西クマネシリ岳、右がピリベツ岳。

そして、その先には私の想定をはるかに超える岩場が待っていました。

ここの岩は非常にもろく、手を掛けただけで剥がれ落ちます。落石対策のため、リーダーの指示のもと間隔を大きく空けて、各々慎重に降りていきました。

もろい岩場を下降するメンバー
手を掛けただけで岩が剥がれる難所。間隔を空けて一人ずつ下ります。
歩きにくい稜線を進む
ハイマツは減ったものの、相変わらずの歩きにくさ。

体調不良、そして奇跡的に冷えた場所

しばらく進んだところで、メンバーの一人が体調不良を訴えました。炎天下です。

幸いなことに、すぐ近くに周囲より5度以上は低いのではないかと思えるほど、奇跡的に冷えた場所がありました。すぐにそこへ避難します。

振り返ってみると、素早く対応できたのには理由があったと思います。その方が「どのような症状が出始めたら不調と判断するか」という自己判断の指針を持っていたこと。そしてそれを気兼ねなく仲間に伝えられる関係だったこと。申し出がもう少し遅れていたら、あの涼しい場所での休憩はできなかったはずです。

休憩中、Kさんがマラソンでの心拍数管理について話してくれました。簡単に言えば「初期段階で心拍数を上げすぎると、そのあと心拍数は上がりづらくなり、場合によっては不調も伴う」というもの。

それを聞いて、はっとしました。水分もしっかり摂っていたにもかかわらず体調を崩したということは——要因は、あの序盤のハイペースではないか。

ハイペースはその場の疲れだけでなく、何時間も先まで影響を及ぼす。今さらながら、身をもって知らされました。

西クマネシリ岳、そしてソールが剥がれる

行くも戻るもそれなりの距離だったため、このまま西クマネシリ岳まで進むことにしました。

何とか山頂に到着。そのころには体調も幾分回復したようで、ひとまず安心です。

西クマネシリ岳の山頂
西クマネシリ岳(1,464m)に到着。
西クマネシリ岳の山頂標識
山頂標識。眼下には雲海が広がっていました。

しかし、ここでプチアクシデントが発生します。Aさんの靴のソールが少し剥がれてしまいました。

すかさずKさん、Yさんから「テープありますよ」と声がかかります。テープで固定して乗り切ることになりましたが、自分のシューズも3年目。とても他人事とは思えず、補修テープを登山必須道具の一つに加えることをその場で決めました。

ここでピリベツ岳へ向かうか下山するかを相談し、全員一致で下山を選択しました。

下山 ―「アスレチック」の本領

ここから名誉挽回とばかりに、再度先頭を務めます。

西クマネシリからの帰路は強傾斜で、かなりのスリルを味わうことができました。落ちれば一発アウト、という箇所もあり、この山が「アスレチック」と呼ばれる理由がよくわかりました。

強傾斜の下山路
落ちれば一発アウトの強傾斜。まさにアスレチックです。

傾斜はやがてゆるやかになりましたが、今度は不明瞭な道が多く、何度か引き返しました。そんな最中、Aさんは読図を教わりながら、現場で知識を深めていました。

地図を確認するメンバー
不明瞭な道が続く区間。現場で学ぶ読図が、いちばん身につきます。

最後の最後に、もう一度テープの出番

終盤、またしてもアクシデントです。度重なるハイマツとの格闘のためか、西クマネシリとピリベツ岳の分岐で、Yさんのパンツが盛大に破れているのが見つかりました。

「服の破れはダニの入り口」。というわけで、本日再登場の補修テープです。1度の山行で2度の出番。やはり必須アイテムでした。

補修前の状態
補修前。なかなか豪快に破れています。
テープで補修した状態
補修後。テープさまさまです。

補修を終えたところで、Kさんがカッコ良すぎるAさんを発見しました。

下山路のAさん
カッコ良すぎるAさん。

その後は落ち着いた道(といっても普通の山より強めの傾斜)を雑談しながら進み、16時26分、無事に登山口へ到着。お互いを労って、長い一日が終わりました。

所感・教訓

① 時期の選択

Kさんが入山届を確認すると、今月の入山はまだ4組でした。

登山中にYさんから「もう少ししたら草原があるよ」という発言がありましたが、実際に着いてみると猫の額ほどの野原。「こんなに茂っていたかな」「もう少し視界が良かったような……」という声も上がり、みんなの結論は「この時期に来る場所ではない」。どうやら秋がベストシーズンのようです。

8時スタートにもかかわらず1番乗りだった理由に、ようやく納得がいきました。あの林道の枝は、そういうことだったのです。

② ペース配分と体調管理(SLとしての反省)

先頭を歩く際のペース維持の難しさ、そして序盤の過度なハイペースが、後々のメンバーの心拍数や体調不良に直結することを学びました。今後は全体の様子に配慮した歩行調整を徹底したいと思います。

③ チームワークと補修資材の重要性

メンバーが自身の体調変化を早期に申告し、それを気兼ねなく受け入れ合える関係性が、リスク軽減(冷涼スポットへの避難成功)につながりました。技術や装備の前に、まずこれだと思います。

そして装備面では、ソールの剥がれとウェアの破れ——1日の山行で2度も活躍した「補修テープ」。非常時の必須道具であることを痛感した一日でした。

おわりに

初めて先頭を歩いた山行は、反省点だらけの結果となりました。それでも、失敗から学べたことの多さで言えば、これ以上ない一日だったとも思います。娘たちには「やらかした」と正直に報告しようと思います。

リーダーのKさん、的確なご判断とご指導をありがとうございました。Yさん、Aさんも、お疲れさまでした。次はぜひ、ベストシーズンの秋に、ピリベツ岳まで。

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